(前編)
第二章・王子暗殺
フィスの
剣
シミター
が空を斬る。
陽光をのせた切っ先は男――水夫の前髪を少し散らすだけにとどまる。
退くのが遅かったら両目の光は失われていた。
しかし水夫は退いた勢いで、砂のまかれていない床にかかとを滑らせ仰向けに倒れる。
フィスはその隙をみのがさず水夫の肩に剣を突き刺し、白い頬に血が飛び散る。
その瞬間、悲鳴と罵声が起こった。
「王子もうやめて!」
「そうだ、もう決着はついたじゃねえか!」
「もうやめだやめ、俺たちがわるかった。だから許してくれねぇか王子さまよ…」
フィスはなだめられて無言で剣を肩から抜く。一同、ホッと安堵の息をついたのもつかの間だった。
フィスは水夫の首に剣を突き立てたるために腕を振り上げた。
「フィス王子!」
水夫は恐怖に目を瞠り、口元はわなないて許しを乞い震えている。
それを冷ややかにフィスはみつめ行動に移そうとした瞬間、
――
虚空
そら
に
銃声
じゅうせい
が
轟
とどろ
いた。
2
ラティナ号は白い帆に風を受けとめ、海を裂き白い飛沫をあげて大海を行く。
一面澄んだ青い空に、海の色を分けるように引かれた水平線のきらめきが綺麗。
このあたりの海は大変穏やかでしかも西風が強く吹くので
東国
アスリア
に向かうボクたちにとって追い風だった。
ボクはうーん、と背伸びをして、身体を伸ばしつつ、あたりを見渡す。
船上では常に人々が立ち働いている。
荷をうごかしたり、風向きに合わせて帆を操ったり。そしてもしもの海戦に備えて士官が甲板で剣術鍛錬をおこなっていてかけ声が響いていた。
「おう、ラルスちゃん、仕事おわったのか?」
「え?」
頭上から声をかけられて、ボクはハッとして空を見上げる。
ちょうど太陽が中点にきていて白い帆に弾ける
眩
まばゆ
い光が目にはいり、
「まぶしい、」
と小さく呟きつつ目元を手でおおい、水夫さんに答えた。
「うん、
縫帆
ほうほ
おわったの。だからちょっと休憩しようと。ボク
裁縫
さいほう
あんまり得意じゃないんだよね、狙いが定まったとおもったら船揺れるし、指に深く刺さっちゃったよ」
「ははは、そのようだ。手が傷だらけだ」
「え、そこからでもボクの手見えるの?」
「そら、物見台の仕事何年やってるとおもってる? 目がよくねえとできねえ仕事だ」
苦笑をもらし、なれた手つきで帆柱からロープをつかってをおりると水夫さんは優しくボクの手を診てくれた。
「念のためドクターに包帯
巻
ま
いてもらいな」
「たいしたことないよこのぐらいの傷。なめておけば何とかなるよ」
「こんな手になりたいかい?」
「え?」
水夫さんは軍手を口でくわえてはずす。その手をみてボクは痛く顔をしかめた。
手の甲がえぐれて焼かれている。
「ど、どうしたのそれ!」
「傷が腐ってしまって、これ以上腐りが広がらないように傷を焼いた。まあ切り落とさずにすんだのが幸いかな。船の上じゃ、どんな小さな傷もみのがしたらいけねえ。たしかにその傷はなめておけば治るかもしれねえが、もしもって時があるからな消毒ぐらいはしてもらいな」
「う、うん、ドクターのところ行ってくるね!」
と、あわてて踵を返したとき、金の髪を汗で濡らすフィス王子の姿をみつけた。
いや……いまこの船の上では『王子』でも『副官』でもない、『水夫見習い』だった。
そのため今着ている服も王子らしからない。水夫たちと同じ服装で、青いバンダナを巻き、粗末なブラウスとズボン、そして裸足。
フィス王子は木材室から修理用の基材を運ぶ手伝いをしているようだった。
「王子……」
ボクはその王子の姿をみて複雑な気持ちがこみ上げる。
――事は、王子と船乗り達の
諍
いさか
いからはじまった。
フィス王子はゲイル兄さんの副官ということで船に乗船した。
王子の
身辺警護
しんぺんけいご
らしき人は二人いたけれど途中、港で別れたらしく今は王子ひとりだけで、普段はひとりかゲイル兄さんと一緒だった。
王子は副官としての
任務
にんむ
を必死につとめようとしたのだと、ボクはおもう。
でも、『副官』というのは名目だけ。
船乗り達は王子を〈海をよくしらない子供〉だと侮っていた。
適当に
敬
うやま
い、適当に命に従っていればいい。そんなおもいが船乗りや士官達にあった。
それに王子に命を預けているわけではない、カスシス提督に命を預けている。
ゲイル兄さんに対する忠誠と信頼は確固なもの。
――それにたいして王子はどこか
傲慢
ごうまん
でうるさかった。
すこし休憩していただけなのに目くじらをたてて、仕事に専念しろ、とうるさく仕事に従事するまで見張ってる。
しだい、『身分の高い王子さま』から、『こざかしいガキ』という印象を持ち始めた。
ボクに対しても、
「女が船に乗るなんて、不吉だ」とか「どうして船長室で寝て居るんだ!」と、文句とも嫉妬ともつかない言葉を投げつけたことがあった。
ボクはいい加減ムッ、ときて言い返してやった。
「船に女が乗るのが不吉? たしかに百年まえはそんな迷信あったわよ! でもいまは女の子が乗る船は幸運だっていうじゃない! 初めて東航路みつけたのは女提督だったと記憶しているけど!」
「なにぉ!」
「なによ!」
王子はこの時、子供らしい怒り方をしたようなきがする。
その言い争いをみていたゲイル兄さんは苦笑を浮かべて仲裁にはいった。
「まぁまぁ。王子。一応ラルスやカイは女子供ですし、荒くれ者の多い船乗りといっしょに置いておくのは兄として心配であって、そして
淑女
レディ
に対しての当然の気遣いです。
――王子はか弱き女性が、
餓
うえた
えたオオカミにかこまれていたらどうします?」
「助けるに決まってます」
迷いなく
即答
そくとう
した王子にゲイル兄さんは満足げにうなずいた。
王子は
傲慢
ごうまん
(口が悪いのか?)だけど道理の通った正義と真っ直ぐな心をもっている。
「王子、ここには王宮と違って
紳士淑女
しんししゅくじょ
はいないのです。荒くれ者の集団だ……王子もそのことお忘れなきよう」
ゲイル兄さんは
優雅
ゆうが
に……それこそ、貴族が王にとるような礼を王子にとった。
たぶんそれは王子に対しての忠告だったんだとおもう。
――しかし、事件は起きてしまった。
それは数日前。船が港を出港して数時間がたったときだった。
ボクは医務室から甲板に出て、偶然王子の姿を見つけたときで。
ひとりで甲板にいた王子の前に数人の水夫が立ちはだかった。
「ガキが…いきがってるんじゃねぇよ」
「なに……」
王子は柳眉を逆立てて水夫をにらんだ。
「もう一度もうしてみよ、無礼な!」
そして悪態をついた水夫の胸元を掴むが背が足りないため逆に憎悪の目で覗かれる形となり、手をはらわれ、水夫のひとりが溜まっていた不満を吐いた。
「俺たちはお前の部下じゃない! カスシス提督の部下だ! なのに何で海のことを…俺たちの事を理解していないガキに命令されなくてはいけないんだ!」
その声をきいた周りの船乗りたちが「そうだそうだ!」とはやし立てる。
王子は
憮然
ぶぜん
とその声とあたりを見渡し答える。
「それは私が副官だからだ。お忙しい
提督
ていとく
の代わりに船の監督を務めるのが私の役割だとおもってる」
吃
キツ
、と迷いなく言う王子をみて、水夫は苦笑を浮かべた。
「ガキが一人前の口をききやがる……なら、勝負だ」
王子の眉間にしわが寄った。
「勝負?」
「提督は強い。そして命預けるに値するお方だ。昔提督は海賊だった俺らを得るために武勇と寛大さを見せてくれた。お前が副官で提督の代わりだというのなら、〈強さ〉を見せてみろ。――決闘だ」
「どうしよう……」
ボクは兄さんを呼びに行くべきが迷った。 いま、兄さんは具合が悪くなって、医務室で寝ているカイのもとにいる。
医務室にこの喧噪がとどいていれば駆けつけてくるとはおもうけど、もしものことがあったら……。
ボクは意を決して
報
しら
せようと踵を返した刹那、突然後ろから太い腕が伸びてボクをとらえた。
「すこしおとなしくしててくれや、姉ちゃん」
でも、という言葉は口をふさがれてでない。
――というより、この人船にいたっけ?
船乗りのほとんどと顔見知りだけれど、この男はしらない。
それに気づいたときその男の瞳に嘲りの笑みがうかび、不安と恐怖が背筋に這った。
王子はしばらく黙っていた。
「やっぱりガキには無理か、」
水夫の誰がが苦笑混じりに
揶揄
やゆ
し周りがどっとが笑い出した。
王子はキッと、水夫をにらんだ。
そして腰に佩びていた
剣
シミター
を抜きはなちスッ…と、のびた腕、剣の切っ先は水夫の喉もとにとどく。
「いいだろう。私が勝ったら、無礼をわびてもらおうか」
王子のブラウンの瞳に冷徹な光がのった。
「よし! 砂をまけ!」
ザァァとバケツの砂が甲板に広がる。
船が揺れ足場が悪いため、白兵戦の際、滑り止めのために砂がまかれる。
「ガキの思い上がりをたたき直してやる」
水夫が両手に二本の
短剣
ナイフ
をもち、襲いかかる。
高くなる金属音、太陽の光を弾いて混じり合う剣。
素早い攻撃に王子は後ずさり、繰りだす短剣の刃を
躱
かわ
し、
弾
はじ
き、
交
か
わす。
王子の白い頬に、一筋、赤い亀裂が走った。
誰かが、
「あの水夫、本気なんじゃないか?」
と疑問の声を上げた。
数合くり繰り広げられるけれど、王子は防御のみ、一度も剣を繰ることはない。
――王子!
ボクは王子の無事を祈って見守るけれど、ボクをとらえる男が呟いた。
「このまま王子を殺してくれれば好都合、だな」
――え?
ボクはハッとして男の顔を見上げる。
と同時に男の首筋に
手刀
しゅとう
がとんだ。
「ぐあ…」
呻
うめ
き、男の顔が苦痛に
歪
ゆが
んでその場にくずれた。
「――ゲイル兄さん!」
ゲイル兄さんが密かに背後に回り込み男に手刀をあたえたのだ。
「なんの騒ぎだ?」
ゲイル兄さんは決闘をしている二人に目をやった。
いつの間にか形成は逆転し、今までおされぎみだった王子が一転して、攻撃に出た。
素早く剣を繰り出して、水夫のもつ短剣の片方をはじきとばした。
クルクルと短剣が弧を描いて甲板に突き刺さる。
周りの者たちは白熱する勝負に歓声をあげて提督がその一部始終をみていることに気づく者はいなかった。
「じつは、王子の態度に切れた水夫が決闘を挑んできたの。それで王子はその決闘をうけてしまって。ボク、兄さんにそのことをしらせようとおもったのだけど、この人に……」
ボクは足下で気絶している男を
一瞥
いちべつ
する。
ゲイル兄さんは、ため息をはいた。
「バカどもが。王子はあれでも剣の達人だ、俺だってかなうかどうかわからんと言うのに……しかし恐れていたことがおきてしまったな」
「兄さん?」
ゲイル兄さんの表情が険しくなった。
「責任をとってもらわないとな。王子にはきびいしいが、きまりだ」
歓声が悲鳴と罵声にかわった。
ボクはハッとして王子たちをみて青ざめた。
王子の剣が水夫の肩を貫き、血が飛び散る。
ボクは青ざめて叫んだ。
「王子もうやめて!」
「そうだ、もう勝負はついた」
皆が王子を止める言葉を
吐
つ
くが王子は冷ややかに水夫を見下し剣を振り上げた。
同時にゲイル兄さんが銀色の
拳銃
けんじゅう
を取り出し空に撃ちはなつ。
全員の視線がゲイル兄さんに注目し青ざめ、
「て、提督……」
不安と緊張があたりに広がる。
王子も兄さんの厳しい表情をみて不安にかられたように剣をおいて、肩をやられた水夫もおびえたように兄さんをみつめた。
無言のまま二人のもとに歩む提督を皆が固唾をのんで見守る。
「決闘とは、穏やかではないな。言い出したのはお前たちだというが、どういう事か」
静かだが厳しさが響く声に、水夫たちは観念して説明をした。王子の態度が気に入らなかったことを。
そして決闘の運びになったことを。
「副官どのはその決闘をうけたと…たしかに威厳をしめすためにやらざるえなかっただろうが、いささかやりすぎと言うものだ。なにも怪我を負わせる必要はなかったとおもうが」
「しかし、この者は!」
「だまれ!」
厳しいゲイル兄さんの言が王子の言を絶つ。
「提督として副官の職をしばらく預かる。そして水夫として過ごすことを命ずる」
「提督……」
王子は見捨てられた子犬のような表情でゲイル兄さんを見つめたけど、兄さんは冷たい瞳で見据えていた。
そしてまわりの者たちにも命じた。
「みなも、王子ということをわすれこの少年を船乗りの一員と扱うように!」
3
「ふーん、そんなことがあったの。だから王子はいまは水夫さんなんだね」
カイは納得したというように頷いた。
ボクは医務室におとずれて消毒をしてもらっいながら王子が水夫として過ごしている事情をしらない二人に話した。
ドクターも頷いて、
「しかし提督も大胆なことをおっしゃったものだの。王子を水夫として扱えとは。本国にしられたら事だの…」
「そうだよね、王様にしられたら事だよね…」
「でも提督もなにか考えがあり、そして責任をもって命じた事だろうのぉ。王子を殺したがっているやつがいたんじゃろ?」
「そうだ! ドクターその人どうなったの?」
あのあと、ゲイル兄さんは数人の船乗りのをあつめて、気絶している男と負傷した水夫を医務室に運んだ。
ドクターは首をふる。
「暗殺者のほうはしらないね。ここに来たのは負傷した水夫一人だけだったから」
「そう、なの。兄さんに聞けばわかるかな…」
うーんと、あごに人差し指をのせながら天上をみあげ、あっ、と手を叩く。
「その水夫さんはどうなったの?」
「ああ、けっこう大げさに痛がってたけどたいしたことないし後遺症にはならん。
だが大事をとって前の港でおろしたが…」
ドクターの見立ては間違いないのでボクはホッと息をつきつつ、ふと思う。
じゃあ、もしかして王子は水夫さんのことを本気で殺そうとはおもってなかったんじゃないかな?
たしかに王子は剣を水夫さんの喉に切っ先を定めていたけど、首の横に突き刺して、脅すだけだったのかもしれない。
いつものように、
嘲
あざ
った表情をうかべて、
「二度と私に逆らうな、」って。
「でも王子も大変だのぉ。いままで
労働
ろうどう
なんてやったことないだろう? いまごろ根をあげてるんじゃないかな?」
「でも、怪我とか倒れたとかで一度もここに来てないんだよね?」
「そういえばそうじゃな」
「もしかして今までの王子の態度が気に入らなかった水夫さんに仕返されて、いじめられていたりして……そんなことするような人たち、」
じゃないと、否定しきれない。
なかには荒くれ者だっているし。
「なんだか心配だよ、――そうだ! ボクが王子の手伝いをしよう!」
ボクは思い立ってすぐに踵をかえし王子のもとに向かおうとするけれど、
「ラルス待つのじゃ!」
ドクターの静止の声をきいてふり返る。
「いっちゃだめ? ちゃんとドクターの手伝いもするからさ…」
ドクターはくすくすと笑って、リークの実を二つ手渡した。
「わしゃかまわない。これを王子にもっていってあげなさい。疲れがとれるとおもうから」
「うん!」
ボクはありがうといって、王子のもとにかけていった。
4
王子は休憩にはいったのか帆柱に背中を預けて休んでいた。
ボクは王子がいつもそこで休んでいることを見かけしっていた。
ちょうど
帆
ほ
が影になって陽射しをほどよく遮り、王子以外に人はいなかった。
王子の足下に猫がすりよってしっぽをピンッとたてている。
王子はしょうがないと微笑んで抱き上げてその背をなぜて微笑む。
その少年らしい表情を眺めつつボクは苦笑した。
――王子って動物にはすかれるのよね。
「王子」
ボクの呼びかけに、王子はハッと顔をあげて次には
憮然
ぶぜん
とした表情をつくった。
さっきの穏やで、優しい表情の王子は消え去った。
「なんの用だ、わらいにきたのか?」
「ごあいさつね、ボクは心配してきてあげたのに」
はい、と、リークの実を王子に手渡す。
王子は赤く艶やかなリークをみつめ、ぽつりと呟いた。
「提督にたのまれてか?」
「ちがう、ボク、フィス王子が心配で」
「――どうして?」
「どうしてって、ほっとけないからよ」
「ほっとけない?」
じっ、とボクを見上げ問う。
意外だった。
ボクはてっきり
嘲
あざ
りの表情をうかべるとおもっていた。
けれど、王子は
途方
とほう
にくれ困ったような、切ない表情をボクにむけたのだ。
「王子?」
「みんな私をほっておくのに、どうしてお前や水夫たちはそう私に
かまおう
、、、、
とするんだ」
「みんなが
かまう
、、、
?」
王子はハッとして立ち上がる。
抱いていた猫がおどろいて王子からとびおり、不満の鳴き声をあげた。
「私のことはほっておいてくれ!」
そういって踵を返していってしまう。
ボクは王子の意外な面におどろいき、ハッとして慌ててあとをおう。
「まってよ! 王子!」
★ ☆ ★
「フィス王子、こっちきて手伝ってくれねえか?」
「おわったら、フィス坊、こっちもきてくれや!」
「王子、剣術の手ほどきをどうか……」
王子は呼ばれた方を見渡し、一番に声をかけてきた水夫のもとにかけよって、
「なにをすればいい?」と訊ね、指示された場所に向かう。その背に、おわったらこっちも手伝ってもらうとありがたいんだが…というつぶやきをききとってふり返り「わかった」と短く答えて頷く。
「ね、ねぇ!」
ボクは物見台の水夫さんを捕まえて、どういう事なのかたずねた。
だって、ボクはてっきり険悪な雰囲気に取りかこまれて、王子はたくさんこき使われているに違いないとおもったのに、みんな王子を頼りにして、気さくな態度で接しているんだもの!
「いつも王子は、あんなに積極的なの?」
「ああ、あんな風だな。意外だろう?」
「うん。なんかこう、みんなにいじめられているかとおもったんだけど…」
水夫さんは苦笑して伸び始めたあごひげを掴むように撫でながら経緯を語りはじめる。
「あの日、提督に水夫の一員として扱えとの命令されたが、一応フィスは〈王子〉だろう?
だからどう接したらいいのが実際とまどった。しかし、ここはひとまず『
子供
ガキ
』だとおもって接しようときめて、思い切って王子に話しかけたんだ。
背を叩いて「仲良くやろうや」と、気軽にな。
そのとき王子の憎まれ口を覚悟していたが、王子は驚いたように目をみはるばかりじゃねえか。そして戸惑ったように聞くんだ
『何をすればいいんだ?』と。
素直に。
驚いたのなんの。
今までの態度は『かわいげのねえガキ』だったじゃねえか、どこか傲慢で人を見下すような雰囲気でよ。わがまま王子の典型な感じで。
けれどどこかそういうのがはがれてしまったように素直になってるんでさ、俺たちの方が気後れしてしまったな。
それで『あとでいじめてやろう』とか『こき使ってやろう』とか言う気持ちが融けてかわりに、なんだか可愛い弟や息子のようなに思えしまって、――みんな王子はもともと素直な方だってことをなんとなく理解してしまった」
「――うん、」
あの途方にくれた表情をみたときボクもおどろいてしまったもの。
もしかして、わざと人を挑発するような言動をいままでとっていたんじゃないかな?
と話をきいておもってしまった。
水夫さんは続ける。
「それと王子は前向きだな。
提督
ていとく
に身分を剥奪されたことをべつに恨んでいるようでない、今の現状を自分なりに
打開
だかい
しようとしているのがわかる」
「へぇ……」
王子って実はものすごく魅力的な男の子なんじゃないだろうか?
なんだか王子のことをもっと知りたい。
王子と接していけばなにかもっと意外な一面を知ることができるかも!
――最初はボクのことを邪魔にするかもしれない。でもそれでもそばにいれば王子のどこか、
かたくな
・・・・
なところを理解できるかもしれない!
「ボク、王子の手伝いにいってくるね!」
ボクは王子のもとに駆けていって、王子のとなりに並んだ。
案の定、
「なにしにきたんだ」
と
憮然
ぶぜん
とした表情でたずねてきた。
負けるものか。とおもいつつ。
「王子の手伝いをさせてもらいたいの」
にっこり微笑んでこたえる。
「いい、お前に手伝ってもらわなくとも一人でできる!」
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